2013年9月20日金曜日

オーストラリア新政権、トニー・アボット:「マッド・モンク」の登場

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●「マッド・モンク」と呼ばれたトニー・アボット氏は9月18日、就任宣誓式に臨み、正式に首相に就任した〔AFPBB News〕


JB Press 2013.09.20(金) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38744

オーストラリア新政権:「マッド・モンク」の登場
(英エコノミスト誌 2013年9月14日号)

荒くれ者から首相へと上り詰めたトニー・アボット氏の華麗な転身
トニー・アボット新首相が就任宣誓、オーストラリア


 経済学者のロス・ガーノート氏の言う
 「オーストラリアの大いなる慢心」が終わりを迎えようとしている
のかもしれない。
 ガーノート氏いわく、オーストラリア人は1990~91年以降、「先進国としては史上最長の不況知らずの景気拡大期を享受してきた」。

近年、そうした好景気は、オーストラリアを掘り起こして資源を中国に売るという比較的単純なビジネスに支えられてきた。
 月7日の総選挙に向けた選挙戦は、
 中国経済の成長鈍化と、オーストラリアの運が尽きかけている
ことから新しい発想が必要だという感覚を背景に戦われた。

 6年に及ぶ労働党支配に終止符を打ち、自由党と国民党の保守連合を選んだ――従ってジョン・アボット氏を首相に選出した――ことで、有権者は確かに変化を支持した。

■変化を支持したオーストラリア国民

 労働党はある程度、労働党政権の特徴だった退屈で自滅的な内紛を責めるといいだろう。
 2007年に首相に選出されたケビン・ラッド氏は、その3年後に党内クーデターによって失脚したかと思えば、今回の選挙の直前にまんまと首相に返り咲いていた。

 だが、投票結果はそれと同時に、経済政策や社会政策、気候変動の問題について、オーストラリアの政治が明らかに右傾化したことも示している。

 アボット氏は、今回の選挙は、労働党政権が導入し、同氏が廃止を望む「炭素税」に関する国民投票だと述べた。
 だとしたら、有権者ははっきり意見を述べたことになる。
 保守連合は下院(議員定数150)では、野党・労働党に少なくとも30議席の差をつけて大多数を占める見込みだ。

 だが、今回の選挙で定数の76議席のうち40議席しか改選対象でなかった上院では、アボット氏は問題に見舞われるだろう。

 極めて複雑な選挙制度のために、勢力バランスの行方はどうやら8人程度の無所属議員と少数政党の手に委ねられたようだ。
 そうした少数政党の1つが、クイーンズランド出身で鉱業で財を成した大富豪クライブ・パーマー氏率いるパーマー統一党だ。
 同党は上院で2議席を獲得する可能性があるが、上院議員候補の1人は炭素税の廃止に賛成票を投じないかもしれないと述べていた。

 ほかに議席を手に入れそうな政党には、オーストラリアスポーツ党やオーストラリア自動車愛好者党がある(後者の自動車愛好者党は中核的な価値観として、最小限の政府、集会の自由、そして「仲間意識(mateship)」」を掲げている)。これらの政党の投票行動は読めない。

 アボット氏は1970年代に学生運動のリーダーを務めた頃から、オーストラリアの中でも最も乱暴で喧嘩っ早い政治家の1人として頭角を現した。
 ローズ奨学生としてオクスフォード大学で学び、同大学を代表してボクシングの試合に出場。
 その後、しばらくの間、カトリック神学校に在籍し、19年前に議員になる前にはジャーナリストとして働いたこともある。

 攻撃的なスタイルと多くの失言から、メディアはアボット氏のことを「マッド・モンク(怒れる修道士、あるいは狂った修道士の意)」と呼んでいた。
 だが2009年後半、同氏は水面下でジョン・ハワード氏――1996年から2007年まで首相を務めた自由党の大物で、アボット氏にとっては最大の擁護者であると同時に英雄でもある――の支援を受け、1票差で自由党党首の座を手に入れた。

 アボット氏はハワード氏とよく似たタイプの社会的保守派で、例えば同性婚に反対している。だが、自らをマーガレット・サッチャーとロナルド・レーガンの伝統を汲んだ存在として位置づけながら、問題が自由党の市場志向のスタンスに及ぶと、その考えは読みにくくなる。

 アボット氏の宗教的なバックグラウンドに、大企業に対する疑念と政府の介入に対する支持を嗅ぎ取る人もいる。
 例えば、同氏が掲げた、多額の予算を割く有給育児休暇の連邦制度は、自由党の本領である小さな政府の保守主義と相容れない。

■選挙戦であまり争点にならなかった外交政策は・・・

 選挙戦では、外交問題はほとんど取り上げられなかった。
 恐らく、大半の重要な問題については超党派のコンセンサスがあるからだろう。
 だが、中国語を話す元外交官のラッド氏は、外交政策に関するアボット氏の資質をあざ笑い、シリア内戦に関する同氏の分析(「悪者同士の戦い」)は「国際関係のジョン・ウェイン学派」に属すると述べた。

 アボット氏は恐らく、それについてはあまり気にしなかったろう。
 スポーツウエア姿をよく写真に撮られる同氏は、海(アボット氏はボランティアで救助員を務める)やバーベキュー(ボランティアの消防士でもある)、ジムによくいるオーストラリア人男性のイメージを前面に押し出そうとしている。

 保守連合は明確な外交政策を2つしか打ち出していない。1つは、亡命希望者を乗せたボートを追い返すために海軍を使うという物議を醸す計画。もう1つは、4年間で対外援助予算を45億豪ドル(42億米ドル)削る政策だ。

 その他の点では、保守連合の政策は「ジュネーブよりもジャカルタ」という言葉に要約される。
 このスローガンは、オーストラリアが今や、同国の貿易の3分の2以上を占める近隣アジア諸国と一蓮托生だということ、そして新首相もそれを理解していることを認めるものだ。

 アボット氏は「アングロスフィア」への忠誠心と距離を置かねばならなかった。
 アボット氏は2009年に出版した自伝『Battlelines(戦線)』で、オーストラリアと米国の同盟関係と英国および英国王室との関係を支持する気持ちについて綴っている。
 しかし今、新政権の外相を務めるジュリー・ビショップ氏は、アボット氏の政策は
 「それだけではないが、一義的に」インド太平洋地域を重視すると言う。

 新首相の最初の外遊先はインドネシアになる。
 これは難しい船出になるかもしれない。
 オーストラリアに向かうボートピープルの大半の中継点であるインドネシアは、彼らを追い返そうとするアボット氏の計画にいい気持ちはしていない。

 それ以上に重要なのは、オーストラリアにとって最大の市場である中国をどう扱うか、だ。
 ラッド氏は中国語を流暢に操ることを称賛されるどころか、自党議員から批判されるのと同じくらい北京でも酷評された。

 対照的にハワード氏は、イラクとアフガニスタンに軍隊を送り込んで米国との関係を強化すると同時に、中国との関係も改善した。
 アボット氏も同じことをやりたいと思っている。

■驚き、驚き

 しかし、ハワード氏の首相時代以降、中国が自己主張を強める一方で、米国が鳴り物入りのアジアへの戦略的「ピボット(旋回)」で反攻に出ている。
 アジアへのピボットの一面が、オーストラリア北部ダーウィンに2500人の米海兵隊員をローテーション配備するという2011年の合意だ。

 ビショップ氏は米海兵隊の配備に対する中国の怒りは、事前の根回しがなかったことが原因だと主張し、アボット氏は、そうした危険は「ノーサプライズ」のアプローチで回避すると言う。

 だが、台頭する中国と、現在の超大国である米国との軍事的な対立が激しくなる中で、外交儀礼以上の対応が必要となる。
 アボット氏は自伝で、次第に高まる中国の強さは必ずしも
 「オーストラリアの国際関係や外交政策の優先順位にとって大した変化を意味しないかもしれない」
と書いている。

 今のところは、確かにその通りだ。
 だが、もしかしたらそれもまた大いなる慢心の1つだったということになるかもしれない。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。




【うすっぺらな遺伝子】



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